おとくにの職人…P14

長谷川 智昭さん(家具職人)

美しいデザイン、温かく使いやすい家具をつくる。

 

 向日神社から西国街道を南へ。五辻を過ぎると昔ながらの風情が残る街並みとなり、しばらく進むと右手に、創業100余年の「三宅家具製造店」があります。細い通りから一歩中へ入ると、そこは別世界。草木が覆い茂る庭にトムソーヤの冒険を連想する小屋、さらに奥へ進むと様々な木材や木工機械が並んだ巨大な空間が広がります。木工好きでなくとも、ここはワクワクする場所です。

 就職の面接にやって来た長谷川さんも、建物に入るやいなや「うわ~!ここで働きたいな~!」と思ったそうです。同時に「絶対に途中で辞めるわけにはいかない。どんなことがあっても頑張ろうと、相当の覚悟で面接に来ました」と言います。母校の先生の紹介ということもあり、イヤになったら辞めればいいという生半可な気持ちでは、先生の顔をつぶしてしまうと思ったからです。

 入社9年目28歳。これまでさまざまな葛藤や挫折もありました。「でも今まで1度も会社に来るのが厭だと思ったことがないんです。親方(三宅社長)の方針は、新人にもいきなり最初から最後まで仕事をまかせます。図面を受け取ったら、木を加工するところから、組み立て、仕上げ、塗装まで、ひとりが全てを担当します。入社当初からどの工程も覚えられるので、すごく勉強になるんです」

 昨年初めて、依頼主との打ち合わせからデザイン提案、図面製作、製造納品まで完全に一人で行いました。向日市内のイタリアンレストランの飾り棚の仕事です。(1)シンプル(2)木の存在感を生かす、この二つがお客様の要望でした。何度も打ち合わせを行い、デザインを何案も考え、最終的に木の皮を生かした独創的なものを製作し、お客様に大変喜んでいただけました。

 

 

オンもオフも毎日が物づくり。家具製作から出た端材で様々な雑貨小物を創造。

 

 「心斎橋ビッグステップ」1階入口のショーケースは、苦しくも楽しい仕事でした。三宅家具製造店がオリジナルで製作した、全長9メートルの巨大なものです。「ポップな感じにしてほしい」という先方の要望を、親方が図面におこし、長谷川さんが製作しました。コンビナートをイメージしたデザインで、木製ケースのところどころに直径10センチの鉄パイプを通した複雑で斬新な造形です。何度も話し合いをして、製作方法を決め苦労してつくり上げました。

 3年前にはJR長岡京駅にも木製の素敵なショーケースを製作し、京都新聞にも載りました。また、地域貢献として毎年会社で行っている「夏休み木工教室」は長蛇の列ができるほど大人気。今年は子どもたちと何を製作されるのか楽しみです。

 「コッパーズ」(写真右)は、長谷川さんが趣味でつくっているインテリア雑貨。家具製造の後に出た“木っ端”から、顔を切り出しマグネットにした作品です。どれも少しずつ表情が違う、ユーモラスかつ美しい木の表情に目が釘付けになります。

 長谷川さんの机まわりには手製の便利グッズがいっぱい。例えば工具をしまう手縫いの革製道具入れ、木製クランプ、小物入れ等々・・。端材を捨てるのが惜しくて、何かをつくりたくなるという、根っからの物づくり大好き青年です。今年結婚される長谷川さん。抱負は?とたずねると、輝く笑顔で「早く一人前になり、親方のもとで会社を支えていけるようになりたいです」という答えが返ってきました。

 


長谷川 智昭さん 家具職人

平成2年 香川県丸亀市出身 農業高校を卒業後、京都伝統工芸大学校で木工芸を学ぶ
H24年 三宅家具製造店に入社

従事した主な仕事
H30~31年 「心斎橋ビッグステップ」ショーケース
H30年 「東寺保育園」オーダー家具、汽車型絵本棚
H28年 JR長岡京駅設置 「長岡京市商工会」ショーケース
H27年 三菱重工 大型客船「アイーダ」客室ソファ、
その他、イタリア料理店「バルベッタ」(近江八幡)内装、ホテルのエントランス家具
保育園のオーダー家具(ロッカー、靴箱、本棚、収納棚

 

三宅家具製造店
https://www.f-miyake.com
京都府向日市向日町南山26
TEL:075-921-2873

 

 

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