『わたしのおべんと帖』の著者:徳永 奈都子maaaarukooさん

インスタグラムがきっかけで出版デビュー!…P2

「好き!」でつながる楽しさがインスタグラムでした

2-1 今、一番勢いのあるSNSがInstagram(インスタグラム)。昨年末には、Twitterのユーザー数を上回ったというニュースが話題になりました。インスタグラムとは、日常生活のひとコマを、写真に切り取り投稿する写真共有サービスです。その投稿写真に、「ステキ♡」や「かわいい」といった評価をもらいつつ交流するもの。文章も投稿できますが、メインはあくまでも写真であることが、Twitterやfacebookと大きく違う点です。ですから、インスタグラムはアプリ自体に様々な写真加工フィルタがついており、何気なく撮った写真でも、ポストカードのようなお洒落な写真に加工することができるというのが人気の秘密です。
 徳永さんも、インスタグラムを始めたきっかけは、「写真の加工がしたかったから」だと。管理栄養士でもあり、作り手としてのプロですが、料理の撮影スタジオに勤めており、レシピを考え、調理するだけではなく、それが、撮影され発行されるという過程に関わっています。ですから、「美味しそうに見せる」ことへの関心も高く、写真加工アプリとしてインスタグラムは魅力的だったのだと。最初は、旅先の風景など、思いのままアップしていました。そこに、時々、お料理の写真をアップするように…。
 気がつくと、フォロアー数がドンドン増えています。「私がいいなぁ、好きだなぁってものに共感してくれる人とつながっている。インスタグラムは、年齢とか仕事とか、全然関係なく、趣味でつながっていける世界なんだって、気がついたんです」と。
 それからは、料理の投稿に特化し、やがてお弁当へ。徳永さんが日々アップするお弁当の写真は、けっして奇をてらったものでもなく、ましてやキャラ弁なんてものではありません。でも、そのどれもが1枚の絵のように美しい写真です。季節感のある料理に、しっくり馴染む器。お弁当箱は、長細く印象的なフォルムだったり、曲げわっぱだったり。時にはプレゼント用の紙箱だったりするのですが、そこに、素敵に詰め込まれたおにぎりや唐揚げの美味しそうなこと! そうして、料理や器が好きという人たちからのフォローが、どんどん増えていったのです。
 また、逆に、徳永さんが、雑誌などでも活躍する料理研究家をフォローし、メッセージを送ると、驚くほどフレンドリーに応えていただけたことにも感激。そんな双方向性に、ますますインスタグラムに夢中になったといいます。(写真は徳永さん提供)

インスタグラムが広げる世界は思った以上にオオキイ

2-2 6万6000ものフォロワーを持つ徳永さんのもとには、様々な方との交流が生まれています。
 そして、この春、舞い込んだのは、マイナビ出版から「本を出しませんか」とのオファー。人気のインスタグラマーが複数登場するような本だと思っていました が、蓋を開けてみれば、徳永さんだけが著者となる、いわゆる単著本。あれよあれよと話が決まり、春から夏にかけて、料理を作り、写真撮影、原稿の執筆、校正作業を経て、10月1日に発行されました。
 『わたしのおべんと帖 ~カレ、家族、友だち、大切な人につくる』― 素敵なタイトルです。

 徳永さんが作る日々のお弁当を、ビジュアルで魅せてくれたインスタグラム。見た目の美しさは言うまでもないけれど、その美しいお弁当を作っている徳永さんの思いや、それをどんな風に届け、届けられた人がどんな顔をしてお弁当箱の蓋を開けたのだろう…、そんな、写真の向こう側にいる人たちの息づかいが聴こえてきそうな優しい本になっています。
 徳永さんは、お弁当をいつも3つ、多くて4つ作り、必ず渡すのはカレとお母さま。カレへのお弁当は、毎朝、自宅の郵便受けの上に置いておき、それを自転車通勤するカレが持っていきます。キレイに食べてもらったお弁当箱は、徳永さんの家の自転車の前カゴに返却。毎朝、ワクワクした気分でお弁当を受け取りに来るカレの姿や、お弁当箱を開けた時の得意げな顔、「ありがと!」と手を合わせて自転車の前カゴに置いていく姿…、いえ、けっして、そんな細かい描写はないのですが、目に浮かぶのです。そして、幸せのお裾分けをいただいたような、ほっこりした気分にさせてくれます。
 そんな愛情たっぷりのお弁当を作っている徳永さんは、その思いを、こんな風に綴っています。
 「お料理をしているときは、わたしが相手のことを一番思っているときだと思います。季節を感じてもらいたいな、ごまをふりかけて栄養を補っておこう、暑くなりそうだからもう少しお酢を利かせよう……。そんなふうに思いを込めてつくったお弁当だから、自分の気持ちがちゃんと伝わる気がするのです」    
 添えられた写真は、優しくおにぎりを握る手。お弁当に込められた思いを伝えるのに、充分なショットです。
 カレ弁を食べていた「カレ」の反応も気になるところです。最初に出版の話をした時には、「何言ってるのか、意味わからん」と困惑を全面に出しての反応だったといいますが、戸惑いながらも一緒に喜んでくれ、「寄り添ってくれました」と、とびっきりの笑顔で教えてくれました。京都市内の撮影スタジオへは、時には、カレが車で送り迎えしてくれ、校正作業中も隣で手伝ってくれたといいます。
 そんな幸せなお弁当を「私も作りたい!と思う読者のために、本書には、料理のプロの徳永さんからの、貴重なHOW TOもしっかり掲載されています。お弁当作りの段取りから、簡単シンプルなレシピ。そして、お弁当だからこそ気を付けなければいけない衛生面の知恵や詰め方のコツ。お薦めの調味料や調理グッズも紹介されており、料理本としての内容も堂々たるものです。

お弁当を極めたい!

 これからの徳永さんはどこへ向かうの? との問いには、「迷っています」と。本を1冊出して、それで満足ということはないけれど、だからと言って、次の本を出したいということとも、ちょっと違う。具体的な仕事ではないけれど、今、強く「やりたい」と思うことは、「お弁当作りを極めること」だと言いました。曰く、お弁当は、料理の中でも独特の分野なのだと。作りたてよりも、数時間経過した時に一番美味しくなっていなければいけない。つまり、「時間が美味しくしてくれる料理」。そのために、普通の料理とは違ったノウハウが必要であり、その世界の深さと面白さに、本を書くという過程で気づいたということです。
 そうして、極めたその先には、やっぱり研究者ではなく、「作り手」としてありたいとも言いました。
 お惣菜屋さん的なお店で、自慢の料理を量り売り。お客様に、思い思いのお弁当箱を持ってきてもらって、そこにキレイに詰めてあげたいと。そう、お弁当は「お弁当箱に詰める」、ここも普通の料理と違うところ。「キレイに、美味しそうに詰めるのが大好きなんです!」と。お弁当の話になると、本当に瞳がキラキラ輝かせて語ってくれます。
 インスタグラムで注目され、出版デビューも果たし、そんな現代のシンデレラストーリーも、徳永さんは淡々と、謙虚に自分の中に受け止めているという印象です。ただ、その貴重な経験は、少なからず徳永さんの「これから」に新たな可能性を与えたことは、「これから」を語る徳永さんの言葉や表情から、静かな熱気をもって伝わりました。
長岡京で生まれ育ち、そして、これからもここでずっと暮らし続けたいとも言う徳永さん。長岡京をもっと知り、地産地消にも目を向けて、レシピも考えていきたいと、最後に、そんな嬉しい言葉を聞かせていただきました。目が離せない若者を、また乙訓で発見しました!


『わたしのおべんと帖 ~カレ、家族、友だち、大切な人につくる』
徳永 奈都子 maaaarukoo (著)
マイナビ出版 (2016/10/5) 1382円
Instagram @maaaarukoo
https://www.instagram.com./ maaaarukoo


【取材を終えて】
 徳永さんとの出会いは、今年の春でした。知人に、「とっても素敵なお料理を作る女性がいるのよ」と伺い、お話しする機会をいただきました。溢れる才能を秘めながら、物静かで謙虚な徳永さんのお人柄に魅了され、私もインスタグラムのフォロワーに。新しい写真がアップされるのを心待ちにする毎日になりました。そして、9月23日。あら、お弁当のそばに何やら書籍が! 『わたしのおべんと帖』が出版されるという告知でした。届くまでのワクワク感! 届いてページをめくると、もっとワクワク。「食べると心がまあるくなるお弁当」を、私も大事な人ために作ってみようかと思っています。(松野敬子)

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